そして、オクスフォード(解決編)

大学に着く頃には小雨が降り始めていた。
日中少し暑かったせいか、敷地内には青々とした草の香りの軽い熱気が、絨毯のように敷き詰められつつある。

筆記の検定試験は既に終わったらしく、町も大学もいつもの静けさを取り戻していた。

さて、自分がむかうのは、あの部屋だ。
アテネから帰ってきた翌日に、タカイドとともに訪問したあの部屋。

ノックをし、中から了解を得て、扉を開ける。


「・・・・・・おやおや、ローマに行ったのではなかったのかね?」
「どうやら、賭けは自分の勝ちのようですな、教授」
「残念だ。私の方が彼との付き合いは長いと自負していたのだがね」

070315 062037b

まったく、この人達は。

はいはい。ローマには、タカイドを行かせました。
イベントを盛り上げるためなら、二人で行く必要はないですし。一対一の方がシンプルだ。

それに、お二人の意図はわかりましたから、もう私がナポリまで行く必要はありませんよ。


「ふむ、まあ効率的なのは良いことだ。生産的でもある。なにより時間は貴重だからな」

教授が真面目な顔に茶目っ気たっぷりな口調でコメントし、横でメルカトール先生が笑いをこらえている。

「で、あえて聞くが、我々が何をしたって?」

やれやれ。

陸地調査ですよ。
自分に、あるいは、自分も含めた複数の航海者に、陸地調査のやる気を出させるため。

メルカトール先生や教授は海だけでなく陸地の調査と研究を必要とされている。
しかし、今の時代、航海者は海ばかり目を向けていて、ただ依頼をするだけでは引き受け手が少ない。
それはそうです。
そもそもイスラムが原因で陸地の交易では稼げないから、危険を冒しても航海するわけで、リスクだけあってリターンが少ない陸地調査に興味を示すのは、好奇心や知識欲が強くてお人よしな連中だけでしょう。

もちろん、お二人だってそんなことはご承知だ。
だから、航海者の中でも、特に「好奇心や知識欲が強くて」「お人よし」を選別して、今回のヤラセを仕組んでみたんです。

「どういうことかな」

なぜ、わざわざオクスフォードの酒場から、ブリテン島南端まで、誘拐した航海者を運ぶ必要があったのか。
なるべく、危険が少ない場所、しかし陸地の地図や情報が無ければ帰路がおぼつかない近場、それがブリテン島南端だったのではないですかね。

たしかに、自分とタカイドも案内が必要でした。
あの猟師さんも、おそらくあなた方が用意されたのでしょう?
ほんと、海であれば、羅針盤と星や風を読んで自由自在に航海している身なのに、自分の拠点の近くの陸地なのにもかかわらず、近くの町まで自力で歩きつけないなんて、非常に情けない気持ちになりましたよ。

「では?」

ああ、はいはい。
陸地の調査は必要ですよ。
しかも、世界全体に航海者が到達している今、遠くの土地こそ、もっといろいろ調査をしておかないと大変でしょうな。

「必ずしも現地の住民が友好的でないこともある。地図があれば、地質や生態系、遺跡や文化などの調査や整理がしやすいからね」

メルカトール先生がニコニコしながら自白している。

へいへい。
身をもって感じましたよ。

「しかし、どうやって航海者の選別をしたというのかな。ここを訪ねてくる航海者全員をいちいち罠にかけるわけにはいくまい」

・・・・・・教授め、まだ謎解き遊びに付き合わせるつもりだな。
いいでしょう、講義だと思ってお相手しましょう。

ええと・・・・・・。
オクスフォードの町にいた、学生さんとその親族の中に、協力者がいたわけです。

子供とはぐれたお母さん、夫とはぐれた妻、交際相手を探す姉、他の航海者が助けていましたが、主人と離れた従者ってのもいましたね。

教授と会う約束があるのに、困っている彼らを助けてしまう「お人よし」。
非常にうまい選別の仕方だと思いますよ。
教授からの呼び出しに応じてわざわざ会いに来る、という時点で、「好奇心や知識欲が強くて」っていう条件はクリアしてますからね。

「ふむ、だが、大会の主催者達が仕組んだのかもしれないぞ」

フック氏があなた方と無関係だと?
いえいえ、そもそも、教授とフック氏はお知り合いでしょう。

「ほお?」

まず、ヴィクター氏が、フック氏のことを「フック先生」と呼んでいた。
おそらく、オクスフォードがらみで教師と生徒の関係か、あるいはフック氏が教師と知っていたのでしょう。
フック氏も、オクスフォードの関係者だからこそ、大学と町で、今回のような大会を開くことができたのではないですかね。
そして、教員であるなら、教授、あなたと知り合いでもおかしくはない。

「まあ、しかし、知識のある方を「先生」と敬称つけたりもするし、また同じ大学だからといって必ずしも知り合いとは限るまい」

まあ、そうなんですが、フック氏は、ジュスティーヌのことを「教授の娘さん」と呼んでいました。プライベートなことで恐縮ですが、あなたとジュスティーヌの間にはわだかまりがあったし、あなたが自分の家族のことを気軽に周りに話しているとも思えない。
フック氏は、ジュスティーヌがあなたの娘であることもご存じで、かつ、あなたとジュスティーヌが和解していることも知っているから気軽に話題に出せるし、それぐらいには深い付き合いがある友人、そういうことではないですかね。

「まあ、多少強引だが、そういうこともあるかもしれないな。だが、仮にそうだとして、私たちが彼に自分達の都合を一方的に依頼できるわけでもあるまい」

一方的ならねえ。

実際には、最初はフック氏から教授へ頼みごとがあったんじゃないですかね。
親しい友人として。
第2回大会を盛り上げるためには、どうしたらいいだろうか、と。

教授、あなたは、まず大会を盛り上げる筋書きを書いた。
そして、そこに、航海者達が陸地調査に興味を示すような「イベント」を盛り込んだんです。
あまつさえ、あわよくばそのままローマからカンディアまで行って、最初の調査を行うように、です。

「それはまた強欲だね」

いや、まったく、あなたは強欲ですよ。

自分もアテネでしばらくエーゲ海関係のクエストや地図をこなしてましたが、ナポリ発でカンディアやアテネに至る調査が確かにあります。
これは完全に推測ですが、あなたはおそらくアテネのマルティネンゴ氏や、ナポリのギルドや学者とも連絡を取りあっていて、ローマで大会に参加した航海者に、さりげなくエーゲ海関係のクエストを勧めさせる手はずだったのではないですかね。

「ほお」

あのアテネのマルティネンゴ氏には、自分もハメられたことがありますからね。

・・・・・・まったく、ハメられてばかりだよ。

「まあ、動機はそういうことだとしても良いが、フック氏が自ら書いたシナリオじゃないとは言い切れないのではないかな」

いやいや、今回の関係者、あまりにも一方的に話したり、筋書きどおりに進ませようとしたり、良い大根役者っぷりでした。
それはフック氏もそうです。
覚えているセリフをしゃべっているかのようなシーンがありましたからね。

「たとえば?」

ブリテン島南岸から帰ってきた自分とタカイドに、フック氏がこんなことを言ってましたよ。

『レン君に変装していた男が、あなたをどこかへと運ぶ様子が目撃されたのです。どうやら無事のようですが…』

レン氏に変装した男、と明言できてしまっているのが、まず変です。
それに、そもそも運ぶ様子が目撃されているなら、そこからすぐに捜索がはじまってもおかしくはないでしょう?
フック氏はその時の航海者の状況に応じて、アドリブを利かせるべきでしたね。

「ふむ、興味深い。つまり、君の推理はこうだ。

(1)フック氏から私に、大会を盛り上げるための相談があった
(2)私はシナリオを書いたが、ついでに陸地調査を航海者に推進させる内容を盛り込んだ
(3)そして各地に役者を配置した
   オクスフォードの迷子、大会の検定員、妨害された出場者、妨害の犯人、猟師、ナポリのギルドや学者

まあ、そうです。
自分の推理というよりは、うちの若いもんがヒントをくれましたけどね。

「・・・・・・しかし、役者である「犯人役」のジェフ、彼は汚名を被るし、貧乏クジではないか。進んで引き受けるものかな」

まだまだ「可」はやらんぞ、っていう顔しているな。
まったく、先生ってやつは。


ええっと。
おそらく、これから開催されるローマの大会の最後で、情状酌量の事情、という設定が明かされて、お涙ちょうだいのハッピーエンドが用意されているんでしょう。
悪名といったって、所詮は出場妨害だけ、そして実際には彼が本当の実力者であることは、大会で証明されますからね。

「どうだろうね。あの蘊蓄の塊り、タカイド君が圧勝するかもしれないじゃないか」

パパチチであれば苦戦するということだよなあ。
まったく頭のいい人はさらりとヒドイことを言う。

・・・・・・。まあそれはそれ。


いえ、それは大丈夫です。タカイドはいい勝負をするはずですよ。

「ほお?しかし、勝負の行方はわかるまい」

わかります。

・・・・・・なぜなら、タカイドも、教授、あなたの協力者だからです。

「」

今回の件は、シナリオを書いて、役者を配置しただけでは、実際に筋書き通りに事が運ぶかどうかはまだわかりません。
航海者のほんのちょっとした気まぐれで、筋書きから離れて、まったく別の行動で時間をつぶしてしまうこともあるでしょう。

そういう気まぐれを補正して、筋書き通りに歩かせる進行役、演出家が必要です。
そしてそれは、航海者の身近な人物がふさわしい。
艦隊を組んでいる他の航海者、副官、そんなところです。

タカイドがあなた達の協力者であれば、ローマの決勝戦で接戦を演じて大会を盛り上げたり、ジェフ氏の面目を保つように仕向けるのは用意でしょう。

「だが、実際にタカイド君が我々の協力者だという証拠がない」

まあ、証拠はないですよ。状況だけです。

(1)先ほどのあなたの発言どおり、タカイドはあなたと知り合いだ。まあ彼も海洋学者ですからね。

(2)オクスフォードに最初に到着した日、タカイドは協力者である「迷子の姉」と接触していた。
   あいつはあーみえて、女には厳しいタイプで、ナンパにひっかかるようなやつじゃない。
   年頃の養女がいるからってのもあるかもしれないが、ま、過去になんかあったようでね。
   だから、逆に、生真面目なあいつをからかいやすいってもんなんですよ。

   おそらく、フック氏からの伝言を受け取っていたんでしょう。
   大学でそれとなく大会の情報をパパチチに伝え、大学から出たところでフック氏が話しかけるから手伝ってくれ、と。

(3) そして、フック氏のさっきのセリフです。

『レン君に変装していた男が、あなたをどこかへと運ぶ様子が目撃されたのです。どうやら無事のようですが…』

  タカイドが協力者でないなら、自分と同様に眠らされていたはずだから、「あなた達」と複数形で表現しなければならない。一方で、タカイドが協力者なら、彼を眠らせる必要はないから、ジェフ氏が運ぶのは、私一人でよかった。そして、自分の同行者であるタカイドが周囲にフォローするなら、白昼堂々と大の男が眠らされて運ばれていても、誰も不審には思わないでしょう。 

「タカイド君にはどんな見返りが?それに、君を裏切るのは心が痛むだろう」

報酬は何でもいいんじゃないかなあ。
それこそ研究に役立ちそうな希書や実験材料の融通ぐらいでも。

それに、今回の件は、別に、私を裏切ったってほどの悪事じゃないし。
あなた達の動機はまあ崇高なものなわけだし、彼と私の付き合いでいえば、「ドッキリのいたずらをしかけてみました」ってぐらいのものですよ。酒場の宴会のつまみとしてね。

・・・・・・と、あなたも考えたから、タカイドに協力を依頼したんでしょ?

教授は、満足げにうなづいた。
横にいるメルカトール先生も、楽しそうだ。

「ふむ、興味深い話だったな。そこまで言うなら、今回の首謀者は私、ということでも良いだろう」

むーーーーー。まあ、いいか。どうせこの人たちには、口ではかなわんw

しかし!

しかし、あれですよ!
こんな回りくどいことをしなくても!

もう、言わせてもらえばですよ!
すっきりさっぱり、「陸地調査を頼む!よろしくお願いする!」とストレートに頼んでくれれば、一発おっけいですよ。
教授からそんな風に、お願いされたら、なんだって引き受けますからね。
まったく、プライドが高い人たちは、素直に頭をさげないんだから!!!

「ふむ、私が頭を下げれば、なんだって引き受けると?」

そうそう。

「では、お願いしよう。あのジュスティーヌを嫁にもらってやってくれないか。心から、お願いする」

・・・・・・は?


「いや、今回の件、そもそも最初から君がターゲットだったのだ。北米から帰ってきたジュスティーヌが面白そうに、君のことを話すのでな。どうも、君のこともまんざらではなさそうだし、あのお転婆の相手はそれなりの冒険者じゃないと務まらんだろうし。どうだろうか。この通り、頭をさげて、お願いする」

立ちあがって、本当に深々と頭を下げたよ。

え、えーーーーっと、いや、まさか、だって、ほら、えええ???



思わず知らず、かなりの取り乱し様を披露していると、教授の横にいたメルカトール先生が爆笑した。

「パ、パパチチ君、もちろん、教授の冗談だよ、冗談。「何でも」、っていうわけにはいかないだろうって、一本とられたんだよ。いやーー笑ってしまってすまんすまん。だが、我慢して聞いていたらあまりに笑いをこらえるのが苦しくてな・・・・クククク」


・・・・・・ええと、あれ?
そうなんですか。

教授はあっさりと頷いた。

「そうさ。今さら、ジュスティーヌの結婚に私ごときが口を挟めるものでもなし。それに、仮にそんな関係だったとしても・・・・・・」

しても?

「・・・・・・人妻によからぬことを考えるような輩には、娘は嫁がせられないなあ」

ニヤリ、と教授がウインクする。

ぐ、ぐぬぬ・・・(ーー;)

タカイドめ、余計なことまで連絡ををををををををを(恥)


と、とにかく、陸地調査の件は、善処しますから。
何か進んだら、また報告しますよ!!!

そんな風に一方的に宣言をして、教授の部屋を後にした。


やーーーれやれ、
まったく、うちのオギクボ君が名探偵の先祖なら、この教授の子孫は絶対、その好敵手に違いないよ。同じく教授だし。

くわばらくわばら。
しばらくは、極東にでも南蛮貿易しに行こうかなあ。
とにかく、とおおおおおおおおおおくへ行きたいわ(ーー゛)


(この話、了)

クイズバトルなので、謎解き風にね。
読み返すとアラが目立つから、あくまで航海日誌としてw

実際には、ローマに行って、賞品はゲットしてますよ~。


さて、リハビリに毎日更新してみましたけど、まだちょっと苦しいですねえ。夜は眠いw
日中、雨続きだから、続いたってのはありますね。

と思っていら、今日の東京は、超快晴!!!

やばい、またお出かけの虫が・・・・www

ということで、夕方から新宿のビアガーデン行ってきます!

またしばらくお休みいただくかもwww

関連記事

コメント

非公開コメント

NoTitle

お~w(*´∀`)♪
面白かったですよ~w(*ノ▽ノ)
仕事で忙しいのに凄いな~w(*´∀`)♪

ジュステーヌと結婚したら尻に敷かれそうで怖いわーw

やあ♪ダーノさん

> ジュステーヌと結婚したら尻に敷かれそうで怖いわーw
男の甲斐性が試されますなあ(^_^;)
まあ、ダーノさんならジュスの一人や二人、全然大丈夫でしょう^^
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。