氷海世界(アムステルダム:冒険者ギルド)

さて、サンクトペテルブルクからアムステルダムに戻ってきた。

だが、ゾフィーと話してから、なんだか気持ちが落ち着かない。
今のままでいいのかなあ、といった何か悶々とした気持ちが腹の中でわだかまっている。

 そんなすっきりしない気分のまま、ふと立ち寄った冒険者ギルドで、極北海のクエストをみつけた。

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「・・・・・・そういえば、メルカトール先生から依頼されていた極北航路の探索がまだだったなあ」

期限がないのをいいことに、 寒いだの嫌いだの言って後回しにし続けていたが、いい大人として、ちょっと甘え過ぎだっただろうか? 
せっかくメルカトール先生も期待してくれていたわけだし。 

そうだ、それにこの極北の調査は、やり遂げてしまえば、自分だけじゃなく、ユリアナ達副官や、船員の経験にも名誉にもなるはずだ。

またもやゾフィーの凛とした姿が浮かぶ。

あの14歳の少女を見習って、ここはひとつ、もっとまじめに困難に立ち向かってみるべきじゃないだろうか ・

・ 。


「・・・・・・というわけで。この依頼をこなしつつ、メルカトール先生に頼まれている極北の海域調査もしてみようかと考えているんだが」

アパルトメントでパートナー(※別アカ)達や、副官を交えて協議中だ。

「どうでしょうか。まだ時期尚早では」 
タカイドは難しい顔をしている。

「寒いところはもう十分じゃないかな~。次はアフリカの動物にしようよ!」 
シィアグウはハナから興味がないようだ。

自分の副官達からは特に否定的な意見はでない。不安交じりだが、船長が決めるならついていく、という感じだ。

・・・・・・今回は、パートナー抜きで、自分の船だけで行ってみようか。
ふと、そんな考えが浮かぶ。

今回は、今までの反省も含めて、自分の力を試したい。
タカイドやシィアグウは艦隊編成時の心強い船長でありパートナーだが、自分の副官や船員達だって育ってきている。

 「えーっと。今回は、自分の船と副官船でやってみる。なーに、タカイドやシィアグウ達を呼び戻す前はそれでやってたんだし。大丈夫!」 

思い切って断言し、議論を打ち切った。
いや、自分の逡巡を打ち切った、のかもしれない。

「まったくぅ~、パパチチ、2隻で無理しない方がいいよ?」 

シィアグウは、めずらしく心配そうな顔をして、部屋を出ていった。
タカイドは無言だった。

残った副官や船員代表達に決意を述べる。

 「正直、未知の海だし、不安はある。だがここは、覚悟を決めて挑戦だ。二隻だけでも世界周航を何回もこなした我々ならできる。さっさと終わらせて、アムステルダムで大宴会だ!」

 ・・・・・・なぜか、あえて口に出すことで、彼らではないく、自分へ言い聞かせるているような気分になった。


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実際に出発してみると、航海は順調そのものだった。 

先日の大海戦での防衛戦後、落ち着きを取り戻したベルゲンに補給のために立ち寄り、そのままスカンディナビア半島西岸に沿って北上。 

海域調査も特に問題なく進んでいく。 
手ごたえのなさに、肩透かしをくったような感じだ。

少し、気負いすぎたかな? まあ、未知とはいえ海は海だもんなあ。
このまま北極海をそのまま東に進んでしまおうか・・・・・・。

張り詰めていた緊張が緩んできた自覚はあったが、それも自分の余裕のなせるわざ、と都合よく解釈する。


 ・



その翌日の深夜、大きな衝撃と揺れを感じて跳び起きた! 

何事だ? 

「船長、いつの間にか氷に囲まれちまってます!船体に擦れて耐久減っていってる」 
「もしかすると舵もちょっとやられちまったかもしれねえ!」

海に浮かぶ氷の群れ。

流氷とか氷山とかいうやつか。 
つまり、今回のクエストの調査対象はこれか。 

「副官船はどこだ!」 
「後方です」
「動けそうなら、引っ張らせろ!」

幸いなことに副官船はまだ氷に取り囲まれてはいなかった。

暗闇の中、落ちたら即凍死しそうな冷たい海の上。
そんな中へ、ボートをいくつか下ろす。
そして、氷を避けながら、自船と副官船の間に曳航用のロープを貼らせていく。 

寒いはずなのに、脇や背中にはじっとりと汗がにじんでいる感覚が気持ち悪い。


 ・



時間はかかったが、なんとか自船を流氷群から遠ざけることはできた。 

だが、船体の痛みは激しく、補修用の資材は使い切ってしまっていた。 

「まずいですねえ。ちょっと吹雪いてきましたぜ」 

物見の船員が憂鬱そうにつぶやく。

やれやれ、弱り目に祟り目というやつか?

風が一段と強くなってきた。

曳航用に船をつないでいるのは危険なので、副官船との間のロープは切り離したが、こちらは舵がうまく効かないので思うような進路をとることができない。

そしてまた、氷山だ。

小さめのはぐれ氷山が、ここぞとばかりに船に体当たりして、さらに耐久を削ってくれる。


 

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(寄港先も無い未知の海で、資材0の中削られていく耐久) 

「これは・・・・・・さすがに・・・・・」

 やばいとかまずいとかは口にはできないが、内心の焦りが自分から打開策を考える思考力を奪っていく。

いや、すでにそんなものはない。 

もはや頭の中には打ち手のみえない危機的状況に陥った自責の念ばかりが浮かんでは消えていた。
未知の寒冷海域をなめていたなんてことはない。
準備も用心も十分だったはずだ。
もちろん、自分の予見能力の限界内での「十分」でしかないのだが・・・・・・。 

これは、このままじゃいかんという漠然とした想いだけが先走って、実力もないのに背伸びをしたクエストを請けた報いなのだろうか。

タカイドやシィアグウも連れてくれば、彼らの副官船も入れて計6隻。
余裕をもって事に対処できたはず。
今までだって、彼らの知識や機知にも助けられてきたではないか。
なぜ独りでやれると思いこんだのか。

あのロシアの地で、独りで孤独に運命に立ち向かう少女に自分が抱いたのは、尊敬や敬愛ではなく、実は競争心や嫉妬だったのだろうか。

自分だってできるんだ、というつまらないプライドを満たすために、自分の副官や船員、大事な船を道連れにしてしまったのだろうか。



自分が、とりとめもなく、かつ現実には何の役にもたたない想念にとらわれている間にも、船はどんどん傷つき、海の暗さは深まるばかりだった。


「・・・・・・船長、みて」

デッキの上で、同様に暗然としていた副官のユリアナが、ふと何かに気がついてつぶやいた。 

「イルカ・・・・・・それともクジラ?こんな北の・・・こんな冷たい海なのに」

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本当だ。 

この暗い極寒の海を。

自分達二艘の船に並行して泳ぐ生き物。

楽しげにも、自分達を励ますかのようにもみえる。

こんなところで立往生なんて、人間は不便だねえ
いまこそ知恵と勇気の使いどころじゃないですかね

彼らの自由自在な様子から、そんな風にからかわれているような気もする。

それにしても。

なにより、その泳ぐ姿は、優雅でかつ美しかった。 


「・・・・・・まったくだ」

こんな場所でも生きているやつがいる。
自分達だってまだ生きている。

みんなが生きてる間に、みんなでもっと生きるために、みんなできることは、みんなでやりきらなければ。 
一人で頑張ったってしょうがない。

もちろん、指揮官としての責任はある。
だが、自分一人が反省の沼底に沈んでいたところで、ここから脱出することはできない。


急速に、意識が覚醒してくる。 

とにかく船を沈めないように、補強に使えるものは全て資材に変えよう。
船長室の調度はもちろん、他の船室の調度や、脱出用のボートだっておかまいなしだ。

「ボートもですか?」

ユリアナが少し不安そうに確認してくるが、笑顔と自信をもって作業を促した。

この凍える海に小さなボートで浮かんだところで拷問でしかない。
ここを乗り切りさえすれば、食料は魚がまだ取れるし、雪を溶かせば水にも困らない。
救命ボートは不要だ。

これらの作業は、焼け石に水な気休めでしかないかもしれない。

だが、何もせずに消耗する船を眺めているよりはマシだ。
船員達だって活気づく。
身体を動かせばあったまるし、余計な雑念にとらわれることもない。

 いくつかの指示で、再び生気を取り戻した船員達を指揮しながら、なおも次の打ち手を全力で考える。

使えるものはもっと何かないか。
船内金庫にしまい込んである、装備、薬品、アイテム。
そうだ、あの怖ろしい太陽の護符のような超自然のマジックアイテム、ああいうやつ、何かなかったか?

考えろ。考えろ。考えろ。


「船長!!!前方に巨大氷山!!」 


何かのヒントをつかめそうだったが、唐突に、時間切れの宣告が響いた。


それは、まさに小さな島かのような。

そう、もっと後世の巨大な鉄製の船を沈めたやつと同類であろう、氷海世界の王。

夜の闇に浮かぶ、灰色で、巨大で、無慈悲な氷の塊が、真正面からすごい勢いで迫ってくる。

慌てふためく船員達。

もはやなすすべなく、急速に周囲の音を失っていく自分。

二つの物体が正面衝突し、木製の船が引き裂かれる轟音を待ち望むかのように、世界から全ての物音が消えた。


そのとき。

音を失った世界にただ一つ響き渡る、暁闇を引き裂く流星のようなイルカの鳴き声。

自分が無意識に、祈るように右手を胸に当てた時の、
フランクフルトでエイリアスに言われて縫いつけた羽根飾りの感触。



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痛みを感じるほどの突然の白光

まばゆく舞い散る無数の羽根

夜空に輝く天馬のシルエット


海も、空も、船も、船員達も、そして氷山も
視界におさまっていた何もかもが白い光に呑みこまれ







 そして突然真っ暗になった。

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コメント

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尊敬

パパチチさんは着々と海域調査やってますね!!
偉いな~♪♪僕はやっと船作ろかなぁというところですよ。4年ぶりの造船。船作ったらお金なくなるから南蛮しないとだ(@_@;)。
北極は厳しいところなんですね。
僕も行くときはきよつけまする。

No title

毎日更新お疲れ様です♪
ついに極北航路の探索なんですね。
この寒い時期にまぁ・・・w
流氷アタックがほんとにウザイですよね。
自分は名工の大工道具もどっさり持って出かけました。
イルカでちょっと吹いてしまったw
シロイルカとかのご当地イルカかと思いきや、
実際に拡大してみると、ふつうのイルカなんですよねw
どんだけ頑丈なイルカなんだよ・・・
by 羽根飾りの伏線回収お見事でした。

やあ♪あきんこさん

シップリのおかげで、造船はえらくお金と気力が必要になってますぞ~。
G3用の素材船を用意するのに心が折れそうになりましたぞな^^;
がんばってください!!

やあ♪のこりん

あれはイルカに化けたナイアルラトホテプだったのかもしれないよ。
だって、氷山にむけて導いていたんだもの。
希望があると見せかけて落とす、彼のやりそうな手だよねえ。(^_^;
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